パイロット版 其の壱 『筋肉製造工場哀歌』


山田とゐち、29歳、ダメ人間をこよなく愛する、ナチュラル・ボーン・キチガイ(通称:ボン吉)でございます。

小生、無謀にもスポーツジムに通ってたりします。
集う人々の汗、汗、汁・・・
「ガチンコ」を超える感動があります。

そこに一人、特に小生が注目する紳士(戦士)がいます。
50歳前後、背は160cm位、体は細く、70年代物の銀縁眼鏡、バーコードリーダーで頭をかざすと「198円」と表示されそうな最先端を行く髪型。
リストラ直前MK5(まさに 解雇の 5日前)の香り漂う、過激(not志茂田)な勇者です。
そう「豆親父」とは彼の為にあるような言葉。
彼を豆親父と呼ばずして何と呼ぶ?・・・「ゴマ親父」か、それもアリ。

ジムに通う目的はオヤジ狩り対策か何なのかは定かではありません。でも輝いてます、夢があります!小生の希望の星です!

輝く秘密は、ファッション。
Tシャツは明らかにグンゼ(YG)、下は子供の頃履いたような体育の白い短パン、「●●酒店」と印字されたお洒落な白いタオルを首に巻き、片手には「DAKARA」を持つ。
そしてパリコレの舞台を歩くかの如く堂々と筋トレマシンに向かうのです。

白で統一する所、流石です、誰も真似出来ません。

貴方が着るとTシャツ短パンがArmaniのスーツに、タオルがHERMESのスカーフに、「DAKARA」がドンペリに見えます。
ならば腕にしてるロッカーキーはさしずめROLEXか?
ゴージャスです。化膿姉妹のエスコートがお似合いです。

勿論、見た目だけではありません。
マシンに座る彼の眼鏡越しにキラリと光るその眼差しはまさに野獣、ボブサップに不戦勝!
更に驚く事に、普段小生が40kgの重さで行ってるマシンを彼は50kgに設定したのです。 「行くか!?」
固唾を呑んで見守る小生をよそに、荒く鼻息を2回出した彼は、
「ぅおぉりゃぁぁ!!」
とジム中に響く叫び声と共に力を振り絞ったのですが、残念ながらピクリとも動きません。
叫び声を聞いたインストラクター(なっち似)が小走りでやって来て、
「危険です!」
と注意してました。
彼女は、「行くか!?」というより「逝きそう」になった彼の命の恩人となったのです。

その後白い肌を赤く染め、額から汗だか汁だか判断しかねる液体を流した彼は、1時間程でジムを静かに去るのでした。

彼の汗は美しい。(ウットリ)



【追記】

この作品を書いた頃はまだそれなりに暇人で、ほとんど毎日のようにスポーツクラブに通っておりました。
今は時間を失い、お金も失い、職も失い、恋人も失い、毛も失い、失うものはもう何も無いって言う状態になり、5月に退会したわけです。(半分嘘)
ナッチ似の子可愛かったなぁ…

パイロット版と称して掲載しましたこの作品は、当時「トイチ日記」として連載していた物です。
他に数点「トイチ日記」時代の作品があったのですが、小生が保存するのを忘れており、幸か不幸か現在ではこの作品ともう一つ「エアロビ編」しか残っていません。
当時は今の作品よりも『毒度数』が高かったように思えます。

ちなみに写真は、2002年12月頃に前の住まいで撮影した28歳のうら若き少年時代の物です。


著者近影


   
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