第九号 『欲望という名の電車2』


山田とゐち30歳、実家に電話した時祖母が出ると『俺だよ、オレオレ』と名前を名乗らず、声で孫かどうかを判断させ『オレオレ詐欺』を未然に防ぐ、お婆ちゃん子です。

夜の電車。
酒気を帯び、バーコードヘアを振り乱す赤ら顔の落武者達が、両手でグッと吊り革を握り天井を仰ぐその姿は、まさに生き残り(リストラ)をかけた闘いに疲れる『ラスト・サムライ』
半開きの口で、週刊現代のつり革広告に載っている小池栄子を眺める侍の背中が哀愁漂います。
彼等から滲み出る、朝とは違う深い味わいとコクのあるビターな体臭が、脱力状態の小生を窒息させるのです。

稀にそんな車内が、大人のムード漂う通称『ピンクトレイン』に様変わりします。
先程から耳障りな赤ちゃん言葉が小生の脳内に響き渡ります。

女 『ねぇトモ君…ちゅき?』
男 『ん?』
女 『むぅ、ちゅきぃ?』

小生を超える長身にデーモン小暮メイク、今にもパンツ(=地獄)が見えそうなミニスカート、黒い網タイツの網目から素足の肉がボンレスハムの様にモコモコはみ出るアンドレ・ザ・ジャイアント似の女と、男は…ん?何となくhydeに似てる…背は低いが美青年…まさに『美男と野獣』
何がどう転んで二人が結ばれたのか、恋少なき小生は不思議でなりません。
トモ君はあまり乗り気ではなく、アンドレが一方的に押し迫る。
ショッキングピンクのタンクトップから伸びる熊をも殺しそうな豪腕で、彼の腰をガッチリ抑え甘え口調で下目遣い。
本来、上目遣いで男を悩殺するモノだが無念にも彼の背は遥かに低い。

そういえばこの光景、何処かで見たな…
ああ、ライオンが獲物を捕えた時に似ている!
麻酔銃でトモ君を助けたかったがどうやら既に手遅れらしい。

男 『止めろよ人が見るだろ?』
女 『だってちゅきなんだもん♪』

ええ見てますよ、この目でしっかりと!
月9ドラマ気取りで青春を演じる貴様等のロマンポルノをね。
どうだ恥ずかしいだろ?オラオラ!
小生にはサド的要素があるらしい。

池袋到着。
二人は電車を降りた。
その時小生は驚くべき光景を目の当たりにしたんです。
引き気味だった彼が、急に彼女の肩に腕をまわしピッタリ抱き合い歩き出したのです。
後姿はまるで捕われた宇宙人、木にぶら下がる猿のよう。
小男が大女と歩く時は腰の方がベストだと確信しました。

あ、キスした



【追記】

今回は『夜の電車編』
帰りの電車は本当に酔っ払いが多い。
オイラは酒を浴びる程呑んだ経験はないので、我を忘れる姿までは人々にさらした経験は今の所ない。

それにしても帰りの通勤電車で注目してもらいたいのが、つり革の持ち方である。
意外にも女性は普通に4本の指で持っている人が多い。
面白いのは男性だ。
男性は両手で握り締めまるで祈るようなスタイルで持っていたり、腕を輪の中に通して掌は何故かガッツポーズだったり、二つのつり革をぶら下がり健康器状態で持っていたりして楽しめる。
後はつり革の輪を持たずに革?の方を持っていたりね。
出来ればそのつり革を持つサラリーマンの姿を写真に撮って収集したい所だが、小心者の為、その勇気がない。
車内で写真を撮りまくっていたら、即座に警察に連行され『ミニにタコっていう駄洒落が作りたくて』をなんて言い訳を言わなきゃならなくなる。
でもどうしても撮りたい、何とか良い方法はないだろうか・・・
面白いつり革の持ち方をしている皆さんに声をかけ『写真撮らせてもらっても良いですか?』なんて声かけるのはどうだろうか?
・・・営業マンのくせして飛び込み営業出来ないオイラがそんな事出来るはずがないか。

嗚呼、夢のまた夢。


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